機械設計や設備保全の現場では、ボルトの強度区分(例:8.8、10.9 など)を正しく理解することが非常に重要です。
これを誤ると、締結不足・破断事故・疲労破壊など重大トラブルにつながります。
本記事では、ISO規格で定められたボルト強度区分の意味と、
各区分の引張強さ・降伏強さ(耐力)・せん断強さの目安までわかりやすく解説します。
■ 1. ボルト強度区分とは?
ボルトの頭に刻まれている 数字(例:8.8、10.9) は
そのボルトの 機械的強さ(引張強さと耐力) を示す指標です。
▼ 表記の意味
強度区分 X.Y は以下の意味を持ちます:
- X(整数部分)×100 = 引張強さ(MPa)
- Y(小数部分)×X×10 = 降伏強さ(MPa)
■ 2. 代表的な強度区分と数値
下表に主要な強度区分をまとめます。
▶ ボルト強度区分と機械的性質(ISO 898-1準拠)
| 強度区分 | 引張強さ(MPa) | 降伏強さ・耐力(MPa) | 降伏比 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 4.8 | 400 | 0.8×400 = 320 | 0.8 | 軽負荷、一般機械、建材 |
| 8.8 | 800 | 0.8×800 = 640 | 0.8 | 産業機械、自動車、締結部の標準 |
| 10.9 | 1000 | 0.9×1000 = 900 | 0.9 | 高負荷部、建設機械、重要締結 |
| 12.9 | 1200 | 0.9×1200 = 1080 | 0.9 | 超高強度、金型、ロボット、構造物 |
■ 3. 強度区分の読み方(具体例)
▼ 例:強度区分 8.8 の場合
- 引張強さ:
8 × 100 = 800 MPa - 降伏強さ(耐力):
0.8 × 800 = 640 MPa
つまり
640 MPa を超える力がかかると塑性変形(戻らない変形)が始まる
という意味です。
■ 4. ボルト強度区分と破断荷重
ボルトは以下の順番で破壊に至ります:
- 降伏(塑性変形の開始)
- くびれ発生
- 最終引張破断
引張強さは「破断に至る最大応力」を示します。
■ 5. せん断強さの目安
一般に、鋼材のせん断強さは 引張強さの約0.6倍 と考えられます。
| 強度区分 | 引張強さ(MPa) | せん断強さの目安(0.6倍) |
|---|---|---|
| 4.8 | 400 | 約 240 MPa |
| 8.8 | 800 | 約 480 MPa |
| 10.9 | 1000 | 約 600 MPa |
| 12.9 | 1200 | 約 720 MPa |
■ 6. 現場での使い分け
| 強度区分 | 推奨シーン |
|---|---|
| 4.8 | 衝撃が少なく、低負荷の部品 |
| 8.8 | 機械装置の一般締結、フレーム固定 |
| 10.9 | 大きな荷重がかかる軸・回転体の締結 |
| 12.9 | ロボット関節、金型、重要部位、重量物保持 |
■ 7. 設計者が注意すべきポイント
✔ ① ねじり強さと疲労強度は別物
高強度=疲労に強いとは限りません(むしろ割れやすくなるケースも)。
✔ ② 適正トルクを守ることが最重要
強度区分が上がるほど、推奨締付トルクも増加します。
✔③ 母材側(ねじ穴側)の強度も重要
ボルトだけ強くても、相手が弱ければ破損します。
■ まとめ
- ボルト強度区分は「引張強さ×降伏強さ」を表す重要な指標
- 4.8 → 一般用途、8.8 → 標準、10.9 →高負荷、12.9 →超高強度
- 設計・現場での選定に必須の知識
正しく理解して、トラブルを未然に防ぎましょう。


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