機械設計において、公差等級(IT等級)は 寸法の精度を数値で表す指標です。
特に実務でよく登場する IT6・IT7・IT8 は、
「どの程度の加工精度を要求するのか」を判断する基準として非常に重要です。
この記事では、
- IT等級とは何か
- IT6・IT7・IT8の違い
- はめあい(H7/h6 など)との関係
- 設計で指定するときの注意点
- 最後に使える「IT等級一覧表」
をわかりやすく図解でまとめます。
📘 1. IT等級(公差等級)とは?
IT(International Tolerance Grade)とは、
JIS・ISOで規定される 寸法の許容差の等級 を意味します。
- IT等級が小さい → 精度が高い(許容差が小さい)
- IT等級が大きい → 精度が低い(許容差が大きい)
つまり、
IT6 → 高精度
IT7 → 実用精度(多くの部品で標準)
IT8 → 一般精度(加工コスト低め)
のようなイメージです。
📐 2. IT等級の考え方(基本式)
ISOでは、寸法 D に対し、許容差幅 IT は以下のように決まります。
✔ IT = k × i
- i:公差単位(寸法 D に応じて決まる)
- k:IT等級ごとの係数(IT6, IT7, IT8…)
i は次式で定義:
i = 0.45 × D^(1/3) + 0.001 × D (単位:μm)
その i に対し、
IT6 = 10i
IT7 = 16i
IT8 = 25i
となります。
(細かい式は覚えなくても大丈夫。後で実用的な早見表を載せています。)
📏 3. IT6・IT7・IT8 の特徴と使い分け
■ IT6(高精度)
- 高精度が必要な部品に使用
- 例:軸受、精密シャフト、スプール、バルブ
- 面粗さは Ra 1.6 μm 以下が目安
- コストは高め
■ IT7(標準精度)
- 一般的なはめあい(H7/g6 の穴側など)
- シャフト・ハウジングの標準加工精度
- 面粗さは Ra 3.2 μm 程度
- 最もコストバランスが良い
■ IT8(一般精度)
- ゆるい精度でよい部品
- ブラケット、取付板、一般機械の受け部
- 面粗さは Ra 6.3 μm 程度
- コスト低・加工が容易
✔ 結論:
- 精度優先 → IT6
- バランス優先 → IT7
- コスト優先 → IT8
🔍 4. 同じ寸法でも IT6・IT7・IT8 の許容差はどれくらい違う?(実例)
例えば 基準寸法:50 mm の場合
| IT等級 | 許容差の大きさ(目安) |
|---|---|
| IT6 | 約 ±8 μm |
| IT7 | 約 ±15 μm |
| IT8 | 約 ±25 μm |
差はかなり大きいです。
IT6 → IT8 に変更すると、
加工費が大幅に下がる(その代わり精度は落ちる)
ため、設計では精度とコストのバランスをよく検討します。
🔧 5. はめあい(H7/h6 など)と IT等級の関係
はめあいでは、
- 穴(H7)→ H(基準位置)と 7(IT7 等級)
- 軸(h6)→ h(基準位置)と 6(IT6 等級)
のように、数字部分が IT等級に対応しています。
✔ 例)H7/h6 の場合
- 穴:H7 → IT7級の許容差
- 軸:h6 → IT6級の許容差
- 組み合わせ:すきまばめ(一般的な軸受支持など)
✔ 例)H7/g6
- 穴:H7 → IT7
- 軸:g6 → IT6(位置がHより少し上)
- 組み合わせ:軽いすきま〜移行ばめ
⚠ 設計者が IT等級指定で注意すべきポイント
✔ ① IT等級を下げる(IT6 → IT7)だけで大幅にコストが下がる
特に量産品。
✔ ② IT6は高精度すぎるケースも多い
- 公差は厳しいほど加工時間が増える
- 検査工程も増える
→ 過剰設計に注意
✔ ③ 材料と加工方法で達成可能なIT等級が違う
- フライス=IT8〜IT10
- 旋盤=IT7〜IT8
- 研削=IT5〜IT6
加工方法の限界を理解した指定が必要です。
✔ ④ 表面粗さとの整合性が重要
Ra 6.3 なのに IT6 を要求する…などは不整合。
📊 6. IT6・IT7・IT8 の一覧表(寸法域別)
以下は代表的な寸法域での許容差幅の早見表です。
■ 基準寸法:18mm〜30mm
| 等級 | 許容差(μm) |
|---|---|
| IT6 | 8 |
| IT7 | 13 |
| IT8 | 21 |
■ 基準寸法:30mm〜50mm
| 等級 | 許容差(μm) |
|---|---|
| IT6 | 10 |
| IT7 | 16 |
| IT8 | 25 |
■ 基準寸法:50mm〜80mm
| 等級 | 許容差(μm) |
|---|---|
| —— | ————– |
| IT6 | 12 |
| IT7 | 20 |
| IT8 | 32 |
(※JIS B 0401/ISO 286-1 をもとに整理した実用値)
📝 7. 設計指定の実例(実務での判断基準)
■ ケース1:ベアリング外径のはめあい
- 推奨:H7
- 精度・コストのバランスが良い → IT7で十分
- 研削加工なら H6 も可能
■ ケース2:シャフトとキー溝の精度
- シャフト:h6
- キー溝:側面の寸法は IT7〜IT8
- 強度よりも組立の確実性が重要
■ ケース3:位置決めピンの穴
- 穴:H7
- ピン:h6
- 位置精度要求が高ければ H6/H5 を選ぶケースも
🧩 8. まとめ
- IT等級は精度のレベルを表す国際規格
- IT6 → 高精度、IT7 → 標準、IT8 → 一般
- 加工方法により適用可能な等級は変わる
- はめあい記号の数字は IT等級を表す(H7/h6など)
- 不必要に高い精度を指定するとコストが跳ね上がる
- まずは IT7 を基準に、必要なら IT6/IT8 を使い分ける
寸法許容差一覧表(PDF)のダウンロードはこちら↓
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