ブラケットやリブ、当て板の取り付けなど、機械構造物の中で最もよく使われるのがすみ肉溶接です。
しかし、図面では「すみ肉 6」などとなんとなく指定していて、本当にその脚長で安全か? を計算しているケースは意外と少ないかもしれません。
この記事では、
- すみ肉溶接の用語(脚長・のど厚)
- 許容応力の考え方
- 強度計算の基本式
- 具体的な計算例
- 設計時の注意点
をまとめて解説します。
1. すみ肉溶接の基本用語「脚長」と「のど厚」
まず、すみ肉溶接の強度計算で必ず出てくるのがこの2つです。
■ 脚長(あしなが) a
L字になっている溶接の“片側の長さ”。
図面ではよく「a=6」などと指定します。
■ のど厚 t
実際に力を負担する有効断面の厚さ。
等脚すみ肉溶接(脚長が両側同じ)の場合は、 t=a×12≈0.7at = a \times \frac{1}{\sqrt{2}} \approx 0.7 at=a×21≈0.7a
となります。
例:脚長 a = 6 mm のとき
t ≒ 0.7 × 6 = 4.2 mm
強度計算では、この 「のど厚×溶接長さ」=有効断面積 を使います。
2. すみ肉溶接に作用する応力の種類
すみ肉溶接にかかる主な応力は次の2つです。
- せん断力(剪断):
- ブラケットを引っ張る・押す荷重
- 当て板で荷重を伝える場合 など
- 曲げモーメント:
- 片持ちブラケットの先端に荷重がかかる場合
- 溶接線に対して離れた位置から力が作用する場合
設計の初級段階では、まず
「溶接部に純粋なせん断が作用する」ケースで考えるのが分かりやすいです。
3. すみ肉溶接の強度計算の基本式
■ 基本の考え方
許容荷重Pallow=τallow×Aeff\text{許容荷重} P_{\text{allow}} = \tau_{\text{allow}} \times A_{\text{eff}}許容荷重Pallow=τallow×Aeff
- τallow\tau_{\text{allow}}τallow:溶接金属の許容せん断応力
- AeffA_{\text{eff}}Aeff:有効断面積(のど厚×溶接長さ×本数)
等脚すみ肉溶接の場合: Aeff=t×l×n=(0.7a)×l×nA_{\text{eff}} = t \times l \times n = (0.7a) \times l \times nAeff=t×l×n=(0.7a)×l×n
- a:脚長(mm)
- l:1本あたりの溶接長さ(mm)
- n:同じ溶接が何本あるか(片側/両側など)
4. 許容せん断応力の目安
許容応力は、母材・溶接材料・設計基準によって変わりますが、
簡易計算の目安として、炭素鋼(SS400, S45Cなど)の場合: τallow≈80∼100 N/mm2\tau_{\text{allow}} \approx 80 \sim 100 \text{ N/mm}^2τallow≈80∼100 N/mm2
あたりを使うことが多いです。(安全率込みの設計値として採用)
※ 実際の設計では、各種規格・社内基準・安全率を確認する必要があります。
「溶接部の強度は材料の性質にも大きく依存します。S45CやSS400の特性はこちらでまとめています。」
→ 材料記事
5. 具体的な計算例(せん断のみ)
■ 条件
- 材質:SS400(簡易に τ_allow = 80 N/mm² とする)
- すみ肉溶接:脚長 a = 6 mm
- 溶接長さ:l = 100 mm
- 両側溶接(左右2本) → n = 2
- 溶接にかかる荷重:軸方向に P = 30 kN(=30000 N)
この溶接で 30 kNに耐えられるか? を確認します。
Step1:のど厚を求める
t=0.7a=0.7×6=4.2 mmt = 0.7a = 0.7 \times 6 = 4.2\ \text{mm}t=0.7a=0.7×6=4.2 mm
Step2:有効断面積を求める
両側溶接なので、溶接は2本あります。 Aeff=t×l×n=4.2×100×2=840 mm2A_{\text{eff}} = t \times l \times n = 4.2 \times 100 \times 2 = 840\ \text{mm}^2Aeff=t×l×n=4.2×100×2=840 mm2
Step3:許容荷重を求める
Pallow=τallow×Aeff=80×840=67200 NP_{\text{allow}} = \tau_{\text{allow}} \times A_{\text{eff}} = 80 \times 840 = 67200\ \text{N}Pallow=τallow×Aeff=80×840=67200 N =67.2 kN= 67.2\ \text{kN}=67.2 kN
Step4:安全かどうか判定
- 作用荷重:30 kN
- 許容荷重:67.2 kN
→ 30 kN < 67.2 kN なので、
この条件では 脚長6mmで十分に安全と判断できる、という結果になります。
6. 必要な脚長を逆算する方法
今度は逆に、
「荷重Pが決まっていて、必要な脚長 a を求めたい」場合を考えます。
■ 式の整理
P≤τallow×(0.7a)×l×nP \le \tau_{\text{allow}} \times (0.7a) \times l \times nP≤τallow×(0.7a)×l×n
これを「a」について解くと、 a≥P0.7×τallow×l×na \ge \frac{P}{0.7 \times \tau_{\text{allow}} \times l \times n}a≥0.7×τallow×l×nP
となります。
■ 計算例(脚長の設計)
先ほどの条件で、荷重をさらに大きくしてみます。
- 作用荷重:P = 60 kN
- 許容せん断応力:τ_allow = 80 N/mm²
- 溶接長さ:l = 100 mm
- 両側溶接:n = 2
a≥600000.7×80×100×2a \ge \frac{60000}{0.7 \times 80 \times 100 \times 2}a≥0.7×80×100×260000
分母を計算:
- 0.7 × 80 = 56
- 56 × 100 = 5600
- 5600 × 2 = 11200
a≥6000011200≈5.36 mma \ge \frac{60000}{11200} \approx 5.36\ \text{mm}a≥1120060000≈5.36 mm
→ 脚長は a=6mm としておけば十分、という判断になります。
→ a=5mmだとギリギリなので、実務上は6mmを採用、などの判断がしやすくなります。
7. 曲げを受けるブラケットのすみ肉溶接(概要だけ)
片持ちブラケットの先端に荷重がかかる場合など、
溶接にはせん断力だけでなく曲げモーメントも作用します。
この場合、
- 溶接線に沿った断面二次モーメントを求める
- モーメント M から溶接部の最大応力 τ_max を計算
- 許容応力と比較して安全性を確認
という流れになります。
これは少し長くなるので、
別記事として「片持ちブラケットのすみ肉溶接強度計算」でまとめるとシリーズ化できます。
8. 設計上の注意点
最後に、すみ肉溶接を図面・構造として指定する上での注意点を整理しておきます。
✔ ① 溶接長さ l は“有効長さ”でとる
始端・終端のなじみ部は溶け込みが不足しがちなので、
厳密には少し短めに評価する考え方もあります(規格・社内基準による)。
✔ ② 母材の板厚より大きな脚長は意味が薄い
板厚 6mm に脚長 10mm などは効率が悪い。
板厚に対して妥当な脚長にする(例:板厚同等〜1.2倍程度)。
✔ ③ 応力集中・切欠きも考慮
溶接止端部には応力集中が生じるため、
疲労を考慮する場合は別途 SN 曲線や疲労設計が必要。
✔ ④ 実際の溶接品質
計算上OKでも、
- 溶け込み不足
- ブローホール
- クラック
などがあると強度は大きく低下する。
→ 実務では溶接条件・検査方法も重要。
9. まとめ
- すみ肉溶接の強度は 「のど厚×溶接長さ×本数×許容応力」 で評価する
- 等脚すみ肉溶接では のど厚 t ≒ 0.7a(脚長)
- 許容せん断応力は鋼材で おおよそ 80〜100 N/mm² を目安にすることが多い
- 荷重から必要脚長を逆算することで、
「なんとなく a=6」ではなく、根拠ある脚長指定ができる
「溶接記号の読み方はこちらの記事で図解しています」
→ /welding-symbols
「ベアリングL10寿命の計算式はこちらにまとめています」
→ /bearing-life-calculation

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