SCM440の焼入れ深さと硬化層の目安

SCM440は、クロム(Cr)とモリブデン(Mo)を含む**機械構造用合金鋼(JIS G 4105)**で、
焼入れ性が非常に高く、強度・靱性・疲労特性に優れた材料として広く使用されています。

特に、焼入れによってどの程度の深さまで硬化が進むかは、設計者にとって極めて重要な指標です。
ここでは、SCM440の焼入れ深さ(硬化層深さ)の目安と、実務での使い方をわかりやすくまとめます。


SCM440とは(化学成分と特性)

SCM440は、別名 クロモリ鋼(Chromoly Steel) と呼ばれ、
高強度と高靱性を兼ね備えた代表的な合金鋼です。

🔬 化学成分(JIS G 4105)

成分含有量(%)
C0.38〜0.43
Si0.15〜0.35
Mn0.60〜0.90
Cr0.90〜1.20
Mo0.15〜0.30

クロムとモリブデンにより、

  • 焼入れ性が高い(深部まで均一に硬化)
  • 強度と靱性が高い
  • 疲労強度が高い
  • 熱処理後でも割れにくい

という利点があります。


焼入れとは(SCM440が硬くなる理由)

焼入れでは、材料を850〜880℃付近まで加熱 → 急冷することで、
硬度がHRC50以上になるマルテンサイト組織を形成します。

SCM440はS45Cに比べて焼入れの深さ(硬化層)が大きいため、
大径シャフト・厚肉部品でも高い強度が得られます。


🔥 SCM440の焼入れ深さ(硬化層深さ)の目安

SCM440は焼入れ性が高いため、冷却方法によって硬化層が大きく変わります。

以下は代表的な焼入れ方法ごとの深さの目安です。


① 通常焼入れ(炉加熱 → 油冷)

部位硬化深さの目安特徴
表面3〜6mm高硬度(HRC55前後)
1/4径2〜4mm均一に硬化しやすい
中心部1〜3mm中心も比較的高強度

👉 S45Cの約1.5〜2倍の焼入れ深さ
→ 厚みのある部品・大径シャフトでも内部まで硬化しやすい


② 高周波焼入れ(IH焼入れ)

高周波焼入れでは、表面を急速に加熱するため硬化層が浅くなるのが特徴。

焼入れ条件硬化層深さ
10〜50kHz約2〜4mm
100kHz以上約1〜2mm

👉 摩耗部品(軸受部・カム)に最適
👉 心部は靱性を残せるため、衝撃にも強い


③ 浸炭焼入れとの比較(参考)

SCM440では一般的ではありませんが、
浸炭材と比べると 硬化層は浅い ものの、
材料そのものの強度が高いので、疲労強度は非常に優れる傾向があります。


📊 熱処理後の硬度イメージ

部位代表硬度(HRC)
表面50〜55
中心28〜35

S45Cに比べて、中心部の強度保持が非常に高いことが特徴です。


⚙️ 焼入れ深さを考慮した設計上の注意点

1. 直径が大きいほど深部硬化が有利

SCM440は焼入れ性が高いため、

  • φ30
  • φ50
  • φ80
    と直径が大きくなっても、中心まで硬度を確保しやすい。

大径シャフトやリンク部の採用に適する。


2. 肉厚不均一部は歪みが出やすい

焼入れ深さが大きい=応力も大きく入りやすい。
リブや段付き形状では反りやすいため、
焼入れ後の仕上げ加工を前提に設計する。


3. 摩耗要求が高い場合は“高周波焼入れ+研削”が最適

ローラー、カム、軸受部などでは、

  • 表面:HRC55
  • 心部:靱性確保
    という構造が最も信頼性が高い。

4. 焼入れ深さ指定は明確に書く

良い例:

SCM440 調質
焼戻し温度:600℃
表面硬度:HRC52±3
高周波焼入れ 硬化層深さ:2.0〜3.0mm

※ “硬度だけ”書くのは危険。深さまで指定すると誤解がない。


📌 S45Cとの比較(焼入れ性)

項目S45CSCM440
表面硬度(焼入れ)HRC50前後HRC55前後
硬化深さ1〜3mm3〜6mm
中心硬度低い(焼きが入りにくい)高い
熱処理後靱性中程度高い
疲労強度高い

👉 高強度・高疲労強度が必要ならSCM440一択

👉 一般的なシャフトやピンでコストを抑えるなら S45C


💡 まとめ

  • SCM440は焼入れ性が非常に高い合金鋼で、
    厚肉部品でも深部まで十分な強度が得られる。
  • 通常焼入れで 3〜6mm程度、高周波焼入れで 1〜3mm程度 が硬化する。
  • 表面硬度はHRC50〜55、中心でもHRC30前後を確保できる。
  • 大径シャフト・リンク部・高負荷の機械部品に最適。
  • 図面には硬度だけでなく 深さ・温度・仕上げ方法を明記することが重要。

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