金属部品が突然折れる、割れる──。
その多くは 「疲労破壊」 と呼ばれる現象が原因です。
疲労破壊は、材料の強度が十分にあるように見えても、
小さな応力の繰り返しによって突然発生します。
この「どのくらいの応力を、何回繰り返すと破壊するか」を示したものが
材料強度評価の基本となる SN曲線(S–N曲線) です。
この記事では、疲労破壊の基礎、SN曲線の読み方、
そして設計者が実務でどのように活用するかを分かりやすくまとめます。
1. 金属疲労とは(なぜ突然折れるのか)
金属疲労とは、材料に比較的小さな応力を繰り返し与えることで
亀裂が進展し、最終的に破壊に至る現象です。
✔ 特徴
- 見た目ではほとんど損傷が分からない
- 降伏点以下の応力でも破壊する
- 最後は一瞬で破断する
→ これが「突然折れた」「急にピンが飛んだ」という事故の正体です。
2. SN曲線とは(疲労寿命を表すグラフ)
SN曲線は、
- S = Stress(応力振幅)
- N = Number of cycles(破断までの繰返し回数)
を縦軸と横軸にとり、
材料が どれだけの応力で、何回の繰返しに耐えられるか を表すグラフです。
SN曲線図

- 縦軸:応力振幅(S)
- 横軸:繰返し回数(N)※対数軸
- 応力が高いと寿命(N)が短い
- 応力が低いほど寿命が長くなる
鋼材(鉄鋼材料)では、あるレベル以下の応力だと
疲労限度(フェティーグリミット) と呼ばれる
「何回繰り返しても破壊しにくい」領域が現れます。
3. S45C・SS400などの一般鋼材のSN曲線の特徴
一般的な炭素鋼の場合、SN曲線は次のような挙動を示します。
✔ 疲労限度が存在する
多くの鉄鋼材料では、10⁶〜10⁷回付近で曲線が水平になり、
「これ以下の応力なら疲労破壊しない」という疲労限度が現れます。
例:S45C(調質材)の場合
- 引張強さ:900〜1000 N/mm²
- 疲労限度:300〜450 N/mm²前後
(引張強さのだいたい 0.35〜0.5 倍)
✔ アルミやオーステナイト系ステンレスは「疲労限度なし」
→ 応力が低くても回数を重ねると破壊する点に注意。
4. SN曲線の読み方(重要ポイント)
① 高い応力 → 寿命が短い
N数は10³〜10⁴回程度で破壊。
② 応力が低い → 寿命が長い
10⁵〜10⁶回付近まで直線的に伸びる。
③ 疲労限度(鋼の場合)
一定以下の応力では破壊しない領域が存在。
④ 対数軸で見る
横軸は10³、10⁴、10⁵…と指数的に伸びるため、
寿命の変化が非常に大きいことが分かる。
5. 設計での使い方(実務に直結)
SN曲線は疲労設計の基本です。
以下の手順で部品の寿命見積もりに使用します。
✔ Step 1:部品の「繰返し応力」を計算する
- 回転軸なら曲げ応力
- ボルトなら引張+せん断の合成応力
- ピンならせん断応力
- キーなら面圧応力
✔ Step 2:その応力がSN曲線のどこに位置するか確認
例)S45C 調質材
- 応力振幅 S = 250 N/mm²
→ 曲線から寿命 N ≒ 10⁶回と読み取る
✔ Step 3:使用回数と比較して安全率を設定
- 装置寿命:10⁷回
- SN曲線寿命:10⁶回
→ 寿命不足 → 材料変更 or 応力低減 or 断面増加が必要
✔ Step 4:表面処理や熱処理で寿命改善
疲労強度は以下で大きく変化します。
- 研削仕上げ(表面粗さ改善)
- 研磨・バフ
- 高周波焼入れ
- ショットピーニング
- 表面硬化(浸炭・窒化)
→ 表面から亀裂が発生するため、表面強化は疲労強度に大きく効く。
6. 実務でよくある疲労破壊例
- 回転軸の段付き部で折れる
→ 応力集中+繰返し曲げ - ボルト頭付近で破断
→ 垂直応力+ねじ谷での応力集中 - ピンがせん断で破壊
→ 面粗さ不良+荷重変動 - 板バネ・レバーの折損
→ 高サイクル応力
いずれも微小亀裂が徐々に成長し、最後に一瞬で破断します。
7. SN曲線を扱う際の注意点
SN曲線は万能ではなく、以下の点に注意が必要です。
✔ 材料の表面状態で大きく変わる
粗い面 → 疲労強度が低下
研磨面 → 寿命倍増もあり得る
✔ 応力集中は疲労の最大の敵
段差、溝、ねじ谷、角R不足
→ 応力集中係数 Kt を必ず考慮
✔ 腐食(錆び)は致命的
腐食疲労は寿命が1/5以下になる場合もある
✔ 熱処理条件の影響
調質温度・焼入れ条件により疲労限度は変わる
8. まとめ
- SN曲線は 繰返し応力と破断寿命の関係を表すグラフ
- 鉄鋼材料には疲労限度があり、ある応力以下では破壊しにくい
- 設計では
- 応力計算
- SN曲線で寿命推定
- 必要寿命との比較
を行い、安全率を設定する
- 応力集中・表面状態・腐食は疲労寿命を大きく低下させる
- 寿命改善には表面強化・熱処理・形状改善が有効
SN曲線は疲労設計の“基本中の基本”ですが、
正しく使えば 事故防止・軽量化・コスト削減 に大きく役立ちます。

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