金属材料の強度評価に欠かせない指標が「硬度」です。
特に、HB(ブリネル硬さ)・HRC(ロックウェル硬さCスケール)・HV(ビッカース硬さ)は、
機械設計や材料選定で最も使用頻度が高い硬さ単位です。
しかし、硬度は測定方法によって値が異なるため、
別スケール間で換算する際には注意が必要です。
この記事では、各硬度の特徴と換算表、そして設計に役立つ換算式をまとめます。
1. 硬度とは何か(HB・HRC・HVの違い)
硬度は材料表面の「へこみにくさ」を表す重要な指標で、
測定方法によって以下のように分類されます。
HB:ブリネル硬さ(Brinell Hardness)
- 大きな鋼球を一定荷重で押し付け、くぼみの直径から硬さを算出
- 軟鋼〜中硬度材に適し、材料内部の平均的な硬さを反映
- 大型部品の評価に向く(例えば鋼材受入検査)
特徴: ばらつきが少なく信頼性が高いが、測定痕跡が大きい。
HRC:ロックウェル硬さ Cスケール(Rockwell C Hardness)
- 円錐ダイヤモンドを押し込み、深さから硬さを評価
- 焼入れ鋼・高硬度材に向く
- 測定が簡単で痕が小さく、現場でよく使われる
特徴: 調質材の指定で最も頻繁に使われる。
HV:ビッカース硬さ(Vickers Hardness)
- 四角錐ダイヤを押し込み、くぼみの対角線長さから算出
- 非常に広い硬度範囲で使用可能
- 小さな試験片・局所硬度の測定にも使える
特徴: 変換しやすく、多用途で万能。
2. 硬度換算表(HB・HRC・HV)
以下は、一般的な炭素鋼・合金鋼を対象とした換算の目安です。
※ 材質・組織・熱処理条件により実際は多少ズレます。
🔢 硬度換算表(代表値)
| HRC | HB(ブリネル) | HV(ビッカース) |
|---|---|---|
| 15 | 160 | 175 |
| 20 | 200 | 215 |
| 25 | 245 | 260 |
| 30 | 285 | 310 |
| 35 | 325 | 355 |
| 40 | 375 | 410 |
| 45 | 430 | 470 |
| 50 | 495 | 540 |
| 55 | 565 | 620 |
| 60 | 650 | 720 |
👉 調質材(S45C, SCM440等)は HRC20〜40 が実務的に最も多い領域です。
3. 換算式(おおよそ強度を推定する方法)
硬度と引張強さには一定の関係があり、
HBから引張強さ σB を推定する経験式が広く使われています。
■ 引張強さの推定式(炭素鋼の目安)
σB ≒ 3.5 × HB(N/mm²)
例:HB285 → σB ≒ 3.5×285 ≒ 998 N/mm²
実務では「HBを3.5倍するとだいたい引張強さ」と覚えると便利です。
4. 設計での硬度換算の使い方
✔ 図面指定を読み替える
「HRC30」と書かれた部品の強度を知りたいとき:
- HRC30 → HB285(換算表より)
- HB285 → σB ≒ 3.5×285 ≒ 約1000N/mm²
✔ 熱処理材の設計
調質材は硬度によって特性が大きく異なるため、
使用用途に応じて硬度範囲を変える必要がある。
✔ 材料選定
S45CとSCM440の比較では、中心硬度の違いを
HBまたはHVで比較すると分かりやすい。
5. 硬度換算の注意点(実務では重要)
硬度はあくまで“目安”であり、
以下の理由により実際の強度とはズレることがあります。
- 組織の違い(フェライト、パーライト、マルテンサイト)
- 熱処理条件(温度・保持時間・冷却速度)
- 測定箇所(表面・中心)
- 浸炭層や高周波焼入れ層の影響
- 材料ロット差
→ 安全率の設定が必要
→ 疲労強度を知りたい場合はSN曲線を確認
参考リンク:
→ 金属疲労とSN曲線の基礎解説
→ S45Cの調質とHRC硬度一覧
6. まとめ
- HB・HRC・HVは試験方法が異なり、互換ではあるが完全一致ではない
- 炭素鋼の設計では HRC → HB → 引張強さ の流れで推定する
- 調質材では HRC20〜40 の範囲が最も利用される
- 硬度換算は便利だが、熱処理条件によりズレが生じるため注意が必要

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