機械設計において、SS400とS45Cの違いを正しく理解することは非常に重要です。
どちらも一般的に使われる鋼材ですが、用途・強度・熱処理性・加工性が大きく異なり、
間違った選定をすると強度不足・変形・破損事故につながります。
ここでは、SS400の機械的性質と、S45Cとの比較を実務視点で整理します。
SS400とは(材質の基本と用途)
SS400は 一般構造用圧延鋼材(JIS G 3101) に分類される鋼材で、
「Strength of Steel(鋼材の強さ)400N/mm²」が名称の由来です。
📘 SS400の特徴
- 熱処理による強度向上がほとんどできない
- 安価で入手性が良い
- 溶接性が良く、大型構造物にも使いやすい
- 降伏点が低く、塑性変形しやすい
主な用途
- ベースフレーム
- ブラケット・補強材
- 架台・フレーム構造
- 建築・プラント設備の補材
👉 “構造物”向けであって、機械部品の主材料ではないという位置づけです。
SS400の機械的性質(代表値)
| 項目 | 値(目安) |
|---|---|
| 引張強さ | 400〜510 N/mm² |
| 降伏点 | 約245〜275 N/mm² |
| 伸び | 17〜21% |
| ブリネル硬さ | HB120前後 |
👉 とても“柔らかい”ため、切削加工しやすいが、摩耗や衝撃に弱いという特徴があります。
S45Cと比較するとどう違う?
S45C(機械構造用炭素鋼)は、SS400より強度・硬度・熱処理性に優れ、
比較すべき項目は以下の4つです。
① 強度の比較(SS400は半分以下の場合も)
| 材質 | 引張強さ | 備考 |
|---|---|---|
| SS400 | 400〜510 N/mm² | 構造材・熱処理で強度はほぼ向上しない |
| S45C(焼ならし) | 570〜705 N/mm² | 初期状態でもSS400より強い |
| S45C(調質HRC25〜35) | 850〜1100 N/mm² | 熱処理で大幅な強度向上が可能 |
👉 SS400はあくまで“構造用”であり、機械部品としては強度が不足するケースが多い。
② 熱処理性(決定的な違い)
- SS400:
- 炭素量が少なく、焼入れしても硬度はほとんど上がらない
- 調質による強度アップは不可能
- S45C:
- 調質でHRC20〜40程度まで自由に強度調整できる
- 摩耗・疲労・衝撃に強くなる
👉 熱処理できるかどうかが両者の最大の違いと言ってよい。
③ 加工性の違い
| 項目 | SS400 | S45C |
|---|---|---|
| 切削性 | ◎(非常に良い) | ○(調質硬度が高いと悪化) |
| 研削性 | 普通 | 高硬度材は研削必須 |
| 溶接性 | ◎ 非常に良い | △(割れの可能性) |
👉 SS400は加工しやすいが摩耗しやすい
👉 S45Cは加工は普通だが強度が高い
④ 用途と使い分け(実務的判断)
SS400を使うべき場面
- 強度がそれほど要求されない
- ベース・ブラケット・支持フレーム
- 溶接構造物が主体
- コスト最優先
- 大型で軽度の負荷のみの構造部材
S45Cを使うべき場面
- 回転軸・シャフト・ピン
- 摩耗・衝撃がある部品
- 高い締結力が必要なボルト類
- 調質によりHRC25〜35の強度が必要な場合
- 長期使用で疲労破壊が懸念される部品
まとめ:S45CとSS400の違いを誤ると事故につながる
- SS400は「構造物向け」。機械要素として使うと強度不足になりやすい。
- S45Cは「一般機械部品向け」。調質で適切な強度に調整できる。
- 両者は“似ているようで全く違う材料”であり、置き換えは基本NG。
- 設計時には、
- 必要強度
- 疲労条件
- 摩耗条件
- 熱処理の有無
- 加工工程
を総合的に判断して材料選定することが重要です。
図面に書く場合の実例
【SS400を使う場合】
材質:SS400
構造材:溶接後、必要に応じて軽切削仕上げ
【S45Cを使う場合】
材質:S45C
熱処理:調質(焼入れ → 焼戻し600℃)
仕上り硬度:HRC28〜32
熱処理後に仕上げ加工のこと

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